以前の投稿『あなたの体のうち、ヒトの部分は10%しかない』 で、私たちは体内にたくさんの微生物を宿して共生しており、私たちは微生物に住処を提供する見返りとして多くの活動を彼らにアウトソーシングしている、ということをご紹介しました。
今回はこの点について、もう少し詳しく具体例を交えてご紹介しようと思います。
人体に棲む微生物
私たち人間にとって、自身の細胞数よりも共生している微生物の細胞数の方が10倍も多いことが知られています。
アランナ・コリン著、矢野真千子訳『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』に詳しく記載されているのですが、ここで微生物とは細菌・菌類・ウイルス等のことを指しています。
なんと人間の腸管内には微生物が100超個も存在し、海の珊瑚礁のように生態系を作っているというのです。
腸管内だけではなく、皮膚など他の部位にも大量の微生物が付着しており、私たち人間は大量の微生物たちに住処を提供している大家であると言えます。
微生物にアウトソーシングしている機能
人間がこんなにも多くの微生物に共生を許している理由は何なのでしょうか?
それは、微生物たちの働きによる恩恵を享受できるから、ということになります。
人間の遺伝子の数は約2万1000個であり、これは線虫と同程度と意外と少ない数だそうです。
人間がこれだけの遺伝子数のみで今日のような複雑な生命活動を行うことにはそもそも無理があるのですが、何とか人間自らが進化して遺伝子数を増加させようとすると、それはそれで長い時間がかかります。
そこで、人間は進化で遺伝子数を増やすよりも、微生物に機能を担わせることを選んだというのです。
例えば、腸内で食物を消化・吸収するのに、遺伝子が反応して酵素を分泌し消化するケースもありますが、特定の食物種については腸内細菌の助けを借りて消化吸収することで、人間自身がその食物種を酵素を分泌して消化するための進化の手間を省略できるというわけです。
人間だけでなく野生動物もアウトシーソング
微生物と共生し、機能をアウトソーシングして恩恵を受けているのは人間だけではありません。
野生動物も然りであり、たとえばジャイアントパンダもその一例だそうです。
パンダは、あの独特の白黒の模様がなければ、体型は熊に似ていますよね。
遺伝子的には肉食獣としての特徴を色濃く持っている動物であり、どちらかと言えば肉の成分である蛋白質を分解する酵素を分泌する遺伝子を多く持つ動物なのだそうです。
ですから、竹を食べてそれを上手く消化し栄養を吸収するといったことは、パンダ自身の遺伝子的には苦手な作業なのです。
ここでパンダの腸内微生物たちが活躍します。
パンダの腸内微生物たちは牛などの草食動物たちとよく似た生態系を持っているようで、それら腸内微生物たちを分析すると竹のセルロースを分解できる遺伝子が見つかるそうです。
パンダは腸内微生物たちのおかげで竹を主食とするような環境に適応できたというわけですね。
ジャイアントパンダも私たち人間も、微生物の働きなしでは今日の生活が成り立ちません。
微生物たちが気持ちよく活動してくれるように気を配る、良い大家であることが重要ですね。
さっそく腸内細菌たちのためにヨーグルトでも飲みますか(←過去の投稿と同じセリフの繰り返し)。