太古の昔より人類は夜空を見上げ、北極星を見つけては方角(北)を確認してきました。
地球は公転と自転をしているため、夜空の星々は人々が見上げる季節や時間帯で刻々とその位置を移動していきますが、北極星だけはほとんどその位置が変わらないために北の方角を知るために利用されてきたというわけです。
しかし、北極星が唯一の天体ではなく、移り変わっていくということは意外と知られていないと思います。
北極星と歳差運動
まず、北極星の定義を確認したいと思います。
北極星とは「地球の自転軸を北極側に延長した天球面上の”天の北極”の最も近くにある、肉眼で確認可能な明るい星」
ということになります。
この定義に従い現在私たちが北極星と呼んでいるのは、こぐま座α星のポラリスと呼ばれる天体となります。
先ほど「北極星が唯一の天体ではなく、移り変わっていく」と述べた理由は、”天の北極”の最も近くにある明るい星が、長い年月で見るとポラリスから他の天体に変化していくからとなります。
そのような変化をもたらす要因は、地球の自転軸(地軸)が長い年月(約2万6000 年周期)の間に円を描くように首振り運動するためであり、これは地球の歳差運動として知られています。
歳差運動に関しては国立天文台のウェブサイトにわかりやすい解説が紹介されていますので、ご参考いただければと思います。
ポラリスが先代の北極星であるこぐま座β星(コカブ)よりも天の北極により近い位置に達し現在の北極星となったのは西暦500年頃であり、将来ケフェウス座γ星(エライ)にはその座を譲るのは西暦4000年頃と考えられています。
我々人間は世代を超えて観測を続けていないと認知し得ない、大変長期にわたる変化です。
歳差運動による影響
歳差運動による影響は、天球面上における天体の位置(見え方)にとどまりません。
地球の周期的な気候変動の原因の一つとしても考えられています。
地球には過去5回にわたり氷で覆われた氷河時代があったことが知られており、現在はその5回目の氷河時代の中の比較的温暖な時期(間氷期)と呼ばれています。
氷河時代の中の比較的寒冷な時期(氷期)と温暖な時期(間氷期)とはおよそ10万年周期で交互に訪れますが、これを歳差運動と関連づけて説明する説があります。
曰く、地球の自転軸(=地軸)が歳差運動により傾くことで太陽光の地上への照射角度に僅かな変化が生じ、少しずつ夏が涼しくなっていく。
そのような変化が数百年間継続することで、徐々に気温が低下するとの説明です。
(気温が低下する際の説明。)
現在私たちが直面している人類活動がもたらす温室効果ガスの排出量増加による気候変動や、彗星の衝突や火山活動活発化といった突発的な事象による気候変動とは異なる、もっと長期の周期的な気候変動の要因として歳差運動が挙げられている、ということです。
北極星がポラリスからエライに移り変わる頃には、まだ歳差運動による寒冷化は始まっていないと考えられています。
気候変動に対して短期的には歳差運動を頼ることはできませんので、人類として取り組むべきことをしっかりやっていく必要がありそうです。